# --- Kifu for Windows (Pro) V6.65.63 棋譜ファイル --- 対局ID:14758 記録ID:63aa2ce1aabb17fa6ac15e0f 開始日時:2023/01/21 09:00 終了日時:2023/01/22 17:56 表題:王将戦 棋戦:第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局 戦型:相掛かり 持ち時間:各8時間 秒読み:60秒 消費時間:101▲418△471 場所:大阪・高槻市「山水館」 備考:昼休前43手目19分\n2日目昼休前74手目28分\n封じ手時刻:18:00<61手目>\n 図:終了 振り駒:なし 先手消費時間加算:0 後手消費時間加算:0 昼食休憩:12:30〜13:30 昼休前消費時間:43手19分 手合割:平手   先手:羽生善治九段 後手:藤井聡太王将 先手省略名:羽生 後手省略名:藤井聡 手数----指手---------消費時間-- *藤井聡太王将(五冠)に羽生善治九段が挑戦する第72期ALSOK杯王将戦七番勝負は、藤井の先勝で幕を開けた。第2局は1月21日、22日(土・日)、大阪府高槻市「摂津峡花の里温泉 山水館」で行われる。持ち時間は各8時間。先手は羽生。対局は9時開始。昼食休憩は12時30分から13時30分。1日目の18時以降に手番側が次の手を封じ、翌日9時から指し継ぐ。 *立会人は谷川浩司十七世名人、副立会人は稲葉陽八段、記録係は折田翔吾五段、観戦記は関口武史指導棋士五段がそれぞれ務める。 *対局1日目の朝は柔らかい日差しがそそぐ。8時35分、立会人の谷川十七世名人を始めとする関係者が長机につく。対局室は静まり、緊張感が漂う。47分、先に入室したのは羽生。身の回りを手早く整え、窓の外に目を向けた。48分、藤井が入室。上座に座ると、信玄袋からフェイシャルペーパーなどを取り出し、用意を済ませた。50分、両者が一礼。藤井が駒箱に手をかけ、駒を取り出し、盤上に散らす。藤井は淡々と駒を並べ、羽生はゆっくりと気持ちを込めるように駒を配置していく。駒を並べ終わると、藤井はおしぼりで手を拭き、和服の乱れを整える。羽生は腕を組んで視線を上に向けた。 * *【第2局は高槻対局】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-376a.html *【1日目スケジュール】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-df10.html * *(棋譜・コメント入力=武蔵) *[棋譜表示の*はコメント付きの指し手。【】内は中継ブログタイトルならびにリンク] 1 2六歩(27) ( 0:00/00:00:00) *9時、谷川十七世名人が対局開始を宣言すると、両対局者は「お願いします」と深々と頭を下げる。羽生はしばらく盤上を見つめてから、ゆっくりと飛車先に手を伸ばした。 * *【対局開始まで】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-2bf2.html *【対局開始】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-75cb-1.html 2 8四歩(83) ( 0:00/00:00:00) *藤井も気息を整え、ゆるりと飛車先の歩を突いた。藤井の着手を見て、対局室から関係者や報道陣が退室した。 3 2五歩(26) ( 2:00/00:02:00) *さらに飛車先の歩を伸ばした。戦型について、谷川十七世名人は「羽生九段が、研究量でも負けてはいません、とばかりに角換わりの最新形にするのではないでしょうか」と予想した。日本将棋連盟専務理事の脇謙二九段と稲葉八段は相掛かり、折田五段は雁木、関口指導棋士五段は矢倉とそれぞれの見解を示している。 *「横歩取りの予想はありませんでしたか。羽生九段が先手ですからね。藤井竜王は後手で横歩を取りません」(脇九段) 4 8五歩(84) ( 0:00/00:00:00) *どちらも連続で飛車先の歩に手をかけた。先手の次の一手で戦型が決まる。▲7八金なら相掛かりが濃厚で、▲7六歩なら横歩取りや角換わりに進みやすい。 5 7八金(69) ( 1:00/00:03:00) *金を上がって角頭を守った。 6 3二金(41) ( 0:00/00:00:00) *後手も金を上がって角頭を備え、戦型は相掛かりに決まった。脇九段は「当たりましたねえ」と笑顔を見せる。代えて△8六歩を急ぐのは、▲同歩△同飛▲2四歩△同歩▲2三歩で、後手の角が動けない。 7 3八銀(39) ( 0:00/00:03:00) *◆羽生 善治(はぶ よしはる)九段◆ *1970年9月27日生まれ、埼玉県所沢市出身。(故)二上達也九段門下。1985年、四段。1994年、九段。棋士番号は175。 *タイトル戦登場は138回。獲得は王将12期(永世王将)、竜王7期(永世竜王)、名人9期(十九世名人)、王位18期(永世王位)、王座24期(名誉王座)、棋王13期(永世棋王)、棋聖16期(永世棋聖)の計99期。棋戦優勝は45回。 8 7二銀(71) ( 0:00/00:00:00) *◆藤井 聡太(ふじい そうた)王将(竜王・王位・叡王・棋聖)◆ *2002年7月19日生まれ、愛知県瀬戸市出身。杉本昌隆八段門下。2016年、四段。2021年、九段。棋士番号は307。 *タイトル戦登場は12回。獲得は王将1期、竜王2期、王位3期、叡王2期、棋聖3期の計11期。棋戦優勝は7回。 9 1六歩(17) ( 0:00/00:03:00) *本局の模様は囲碁・将棋チャンネル「将棋プレミアム」とYouTubeチャンネル「囲碁将棋プラス」、「ABEMA PPV ONLINE LIVE」で動画配信されている。将棋プレミアムは有料会員登録が必要で、ABEMAは通し券の購入が必須となる。 *囲碁将棋プレミアムの1日目の解説は藤井猛九段、利き手は貞升南女流二段。2日目の解説は木村一基九段、聞き手は室谷由紀女流三段が務める。 * *【第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局1日目】 *https://www.shogipremium.jp/live/121 *【第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局2日目】 *https://www.shogipremium.jp/live/122 *【1日目メイン映像−囲碁将棋プラス】 *https://www.youtube.com/watch?v=N5yzsNOY7Hc *【2日目メイン映像−囲碁将棋プラス】 *https://www.youtube.com/watch?v=N6-ANKvubbo *【第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第二局 藤井聡太王将 対 羽生善治九段】 *https://abema-ppv-onlinelive.abema.tv/posts/40108602/ 10 1四歩(13) ( 2:00/00:02:00) *王将戦はスポーツニッポン新聞社と毎日新聞社が主催する棋戦。綜合警備保障株式会社「ALSOK」が特別協賛しているほか、囲碁将棋チャンネル、立飛ホールディングス、inゼリーが協賛に加わる。 *一次予選と二次予選はトーナメントで争われる。予選を通過した3名にシード棋士4名を加えた計7名による「挑戦者決定リーグ戦」を制した者が七番勝負の挑戦権を獲得する。王将の永世資格は通算10期以上保持した棋士に与えられる。これまで永世称号を名乗ったのは大山康晴十五世名人のみで、現役棋士での有資格者は羽生ただひとり。 * *【主催:毎日新聞社】 *https://mainichi.jp/oshosen/2022 *【主催:スポーツニッポン新聞社】 *https://www.sponichi.co.jp/society/tokusyu/shogi/ *【特別協賛:ALSOK】 *https://www.alsok.co.jp/ *【協賛:囲碁将棋チャンネル】 *https://www.igoshogi.net/ *【協賛:立飛ホールディングス】 *https://www.tachihi.co.jp/ *【協賛:inゼリー】 *https://www.morinaga.co.jp/in/jelly/ 11 5八玉(59) ( 1:00/00:04:00) *本局の開催地である高槻市は、大阪市と京都市のちょうど中間地点に位置するベッドタウン。今年の1月1日に市制施行80周年を迎えた。人口は約35万人の中核都市で、JRと阪急電鉄のふたつの特急電車が停車し、利便性に優れる。今城塚古墳や安満遺跡を始めとする文化遺跡も数多く、歴史的に見て貴重な場所でもある。市の北部は摂津峡と呼ばれる自然豊かな山間地で、四季折々の自然を楽しめる。 *市のマスコットキャラクターは「はにたん」、市の観光大使にはアイドル育成ゲーム「アイドルマスター」の人気キャラクターである「高槻やよい」が就任している。 * *【高槻市ホームページ】 *http://www.city.takatsuki.osaka.jp/ 12 9四歩(93) ( 8:00/00:10:00) *対局場の「山水館」は、芥川上流の摂津峡と呼ばれる山紫水明の地にたつ温泉旅館。春は桜、秋には紅葉が周辺を彩り、自然を満喫するには最高の環境だ。峡谷を流れる芥川のせせらぎも心地よく、季節の移ろいを存分に楽しめる。 * *【摂津峡 花の里温泉 山水館】 *https://www.sansuikan.com/ *【Twitter:山水館(@sansuikan_tk)】 *https://twitter.com/sansuikan_tk 13 9六歩(97) ( 4:00/00:08:00) *山水館で王将戦が行われるのは、第68期(2019年)から数えて今回で5年連続5回目。すべて七番勝負の第2局が開催された。これまでの戦績は以下のとおり(肩書は対局当時)。 * *第68期(2019年)久保利明王将●−○渡辺明棋王 *第69期(2020年)渡辺明王将●−○広瀬章人八段 *第70期(2021年)渡辺明王将○−●永瀬拓矢王座 *第71期(2022年)渡辺明王将●−○藤井聡太竜王 * *【高槻対局は5年連続】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-e9a6.html *【山水館ギャラリー】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-660e.html 14 8六歩(85) ( 1:00/00:11:00) *2018年、高槻市は全国の自治体としては初めて、日本将棋連盟と包括連携協定を締結し、市をあげて将棋の普及や振興に取り組む。現在、大阪市福島区に本部を構える関西将棋会館は、この高槻市に移転が決定している。 15 同 歩(87) ( 0:00/00:08:00) *高槻市ゆかりの棋士は、桐山清澄九段や福崎文吾九段、東和男八段、浦野真彦八段、長沼洋八段、伊奈祐介七段、古森悠太五段がいる。 *包括連携協定に基づき、2018年から桐山九段の名を冠した「桐山清澄杯将棋大会」が開催され、全国からアマチュアが参加してその腕を競う。また、昨年12月には桐山九段の弟子である豊島将之九段と矢倉規広七段が発起人となり、本局の前夜祭会場である「ホテルアベストグランデ高槻」で、慰労会が行われた。その模様は日本将棋連盟棋士会YouTubeで見られる。 * *【桐山清澄九段引退慰労会−日本将棋連盟棋士会】 *https://www.youtube.com/watch?v=baCkcWpLEyE 16 同 飛(82) ( 0:00/00:11:00) *第2局は地元の高槻市と公益社団法人高槻市観光協会も共催する。摂津峡の渓谷東部にそびえる三好山には、戦国武将・三好長慶の居城で、国の史跡にも指定された芥川城が築城されていた。高槻市観光協会は本局を記念して、両対局者の揮毫が入った記念の御城印「芥川城」を、対局日にあわせて1月21日(土)から1000枚限定で販売する。 *また、2月10日(金)には山水館で今期七番勝負第4局の解説会を行う。解説は古森五段、聞き手は北村桂香女流二段。 * *【公益社団法人高槻市観光協会】 *https://www.takatsuki-kankou.org/ *【「第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第四局」大盤解説会】 *https://open-takatsuki.jp/program/6119/ 17 8七歩打 ( 0:00/00:08:00) *本日と明日の2日間、高槻市現代劇場文化ホールでは大盤解説会が開かれる。解説は副立会人の稲葉八段、聞き手は藤井奈々女流初段。事前申し込み制で、両日ともに応募は締め切られている。 * *【高槻市現代劇場文化ホール】 *https://www.takatsuki-bsj.jp/theater/facility/culture/index.html 18 8四飛(86) ( 0:00/00:11:00) *高槻対局を記念して、高槻現代劇場の大盤解説会のほか、本日の午前からは、小学生を対象にした「第4回高槻こども王将戦」が開催されている。こちらの審判棋士は神崎健二八段が務めている。 *また、3月25日(土)から26日(日)にかけては高槻将棋まつりが開催される予定で、公開対局やトークショー、親子将棋指導対局などが行われる。高槻将棋まつりのチラシのイラストを描いたのは、人気漫画「将棋の渡辺くん」の著者である伊奈めぐみさん。伊奈さんは渡辺明名人の妻であり、伊奈七段の妹である。 * *【高槻将棋まつり】 *https://www.city.takatsuki.osaka.jp/site/shogi/84234.html 19 7六歩(77) ( 2:00/00:10:00) *両対局者は対局前日の20日に現地入りした。高槻市立しろあと歴史館を見学したあと、山水館で検分と揮毫に臨んだ。藤井が山水館で対局をするのは、前期に続けて2回目。羽生は初めてとなる。 *検分では藤井が部屋の明かりについて言及し、光量を落として解消した。羽生は日の入り具合を気にかけていた。 * *【しろあと歴史館見学(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-02af.html *【しろあと歴史館見学(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-9d3d.html *【しろあと歴史館見学(3)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-cbc8.html *【検分】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-42ac-1.html *【揮毫】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-17c1.html 20 5二玉(51) ( 5:00/00:16:00) *本局に使用される駒は、日本将棋連盟関西本部から運ばれたもので、児玉龍兒師作、錦旗書の盛上駒。 *高槻市では、江戸時代に使用されていたとされる将棋駒が47枚発掘された。また、昨年から市は小学1年生に高槻産ヒノキ製の将棋の駒の配布を始めた。広大な森林から出た風倒木を活用し、森の大切さを学ぶ機会を作っている。 * *【高槻産木材製将棋駒の配布】 *https://www.city.takatsuki.osaka.jp/site/shogi/68798.html *【第2局は相掛かりに向かう】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-f935.html 21 7七角(88) ( 4:00/00:14:00) *前夜祭では両者に記念品として、高槻産のヨシ(芦)を使ったトートバッグや膝掛けなどが贈られた。淀川の河川敷である鵜殿(うどの)地区に自生するヨシ原のヨシは良質なことで知られる。 *本局に向けた抱負として、藤井は「一手一手しっかり考えて、作り上げていくような将棋にしたい。みなさまに楽しんでいたけるような熱戦にできたら」と述べ、羽生は「第1局は結果としては残念な形で終わってしまったが、気持ちを切り替えて、みなさまに楽しんでいただけるような面白い将棋を指せるように、全力を尽くしたい」と語った。 *どちらも「楽しんでいたけるように」と口をそろえたのが印象的だった。 * *【前夜祭(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-b995-1.html *【前夜祭(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-8f9f-1.html *【前夜祭(3)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-5d4f-1.html *【前夜祭(4)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-8889-1.html 22 3四歩(33) ( 9:00/00:25:00) *毎日新聞とスポーツニッポンでは、紙面のほか、ツイッターなどでも情報を発信している。 * *【藤井聡太王将「一手一手作り上げて」 王将戦、21日から第2局−毎日新聞】 *https://mainichi.jp/articles/20230120/k00/00m/040/299000c *【藤井王将“臨機応変”「さまざまな形に対応できれば」序列1位の自然体と自覚−Sponichi Annex】 *https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2023/01/21/kiji/20230121s000413F2049000c.html 23 2四歩(25) ( 3:00/00:17:00) *羽生の今年度成績は26勝15敗(0.634)。 *今年度ランキング、対局数6位タイ、勝数10位タイ、連勝17位タイ。 *通算成績は1521勝668敗(0.695)。 24 同 歩(23) ( 0:00/00:25:00) *藤井の今年度成績は40勝7敗(0.851)。 *今年度ランキング、対局数2位タイ、勝数2位、勝率1位、連勝ランキング4位タイ、11位、17位タイ(勝率ランキングは今年度対局数10局未満の者をのぞく)。 *通算成績は305勝59敗(0.838)。 25 同 飛(28) ( 0:00/00:17:00) *歩を回収して飛車を走った。現局面は後手の分岐点で、前例では△2三歩が2局、△7七角成が2局ある。 *「ここから△7七角成▲同桂△2二銀は、2筋に歩を受けない強気な指し方です。△5二玉▲7七角(20手目、21手目)のやり取りで、後手から△7七角成と交換しても手損にはなりません」(稲葉八段) 26 7七角成(22) ( 6:00/00:31:00) *△2三歩と受ければ穏やかなところ、6分の少考で角を換えた。前例は2局となり、藤井は2年前の第80期順位戦B級1組の横山泰明七段戦で、後手を持って勝っている。 *「相掛かりは飛車角桂が主役になる戦法で、自由度が高い作戦です。序盤が終わると、すぐに中盤、終盤となる可能性を秘めて、駒組みが進みます。ここからは、どちらも一手ずつ時間を使っていくことになるのではないでしょうか」(谷川十七世名人) 27 同 桂(89) ( 1:00/00:18:00) *羽生は第44期で王将戦の七番勝負に初登場した。最初の挑戦でタイトル獲得とはならなかったが、続く第45期で2期連続挑戦を決め、4勝0敗でタイトルを奪取。そこから陥落と防衛を繰り返し、第59期まで連続でタイトル戦に出場した。今期は第65期以来、7期振りの王将戦の番勝負で、通算タイトル獲得100期の偉業を懸けて戦う。 28 2二銀(31) ( 0:00/00:31:00) *藤井は前期でタイトルを奪取し、王将位を最年少で獲得した。大山十五世名人、中原誠十六世名人、羽生に続く史上4人目の五冠王となり、羽生が持つ最年少五冠達成の記録を22歳10カ月から19歳6カ月に塗り替えた。タイトル戦に登場した11回すべて奪取、または防衛を果たしており、無類の強さを誇る。 29 6八銀(79) (12:00/00:30:00) *両者は過去に9局の対戦があり、藤井の8勝、羽生の1勝と差がつく。戦型は相掛かりや角換わりなど、相居飛車の将棋がほとんどだが、1局だけ羽生が三間飛車に振って対抗形になったものがあった。 *七番勝負第1局は羽生が一手損角換わり戦法を採用し、藤井が早繰り銀で速攻を仕掛けた。難解な中盤戦から藤井が抜け出し、幸先のいいスタートを切っている。 30 3三角打 ( 1:00/00:32:00) *藤井は王将戦の防衛戦と同時並行で、棋王戦では挑戦者としてタイトル奪取を狙う。ダブルタイトル戦を勝ち抜いて王将防衛、棋王奪取となると、羽生に続く2人目の六冠王達成となる。 31 2六飛(24) ( 5:00/00:35:00) *今日は関西奨励会の例会日のため、前回の高槻対局と同じく記録係は折田五段が務める。また、谷川十七世名人と稲葉八段も2年連続で立会人と副立会人として、現地を訪れている。 32 4四角(33) ( 1:00/00:33:00) *角を上がって飛車に当てた。飛車の利きを2筋からそらすと、先手陣に隙が生まれる。先手は▲2六飛と途中下車しただけに、横に逃げる以外の選択は考えづらい。前例は▲3六飛と▲5六飛に分岐している。 *「藤井王将が経験されたのは、▲3六飛△3三桂▲6六歩の進行でした。▲6六歩に代えて▲3四飛と歩を取ると、△7七角成▲8四飛△7八馬の2枚換えで、後手が指しやすいです」(稲葉八段) 33 5六飛(26) ( 5:00/00:40:00) *飛車を中央に回って、後手の玉頭に据える。この手で前例が第81期順位戦A級▲豊島九段−△斎藤慎太郎八段戦のみとなった。 *時刻は10時30分を回り、午前のおやつの時間となった。藤井は摂津峡地玉子プリンとアイスコーヒー。羽生は雪うさぎとホットレモンティー。飲料のみ対局室に運ばれ、おやつは別室に用意される。 *摂津峡玉子プリンは摂津峡の地玉子を使った山水館のオリジナルプリン。雪うさぎは、雪にもぐってかくれんぼしているようなデザインのケーキで、ラズベリーチョコレートクリームが使用されている。 * *【1日目午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-5637.html 34 7四歩(73) ( 5:00/00:38:00) *△7四歩は羽生の離席中に指された。着手後、藤井は棋譜用紙を借りて目を通す。 *先手は▲3六歩から▲3七桂として、左右の桂で中央を攻めるのが攻め形のひとつ。しかし、▲3七桂の瞬間に△1五歩▲同歩△1八歩▲同香△1七歩の反撃があるため、右桂の活用には神経を使う必要がある。 * *【1日目午前の控室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-94ad.html 35 1七角打 (15:00/00:55:00) *端に角を合わせて交換を誘った。△3三角は▲5三角成で、後手の玉頭に風穴を開けて先手が指しやすい。△1七同角成は▲同桂で手順に桂を活用できる。以下、桂頭が弱点とばかりに、△1五歩▲同歩△同香も飛車の横利きがあって▲1六歩で問題ない。 *「なかなか思いつきづらい一手ですよね。将来▲2五桂と跳ねる予定なら、端に桂を跳ねても同じことができますし、▲3六歩と突いていないので飛車が狭くなりません。後手は角交換以外なら、(1)△6四歩や(2)△3三銀があります。(1)△6四歩は▲4四角△同歩▲6六角とされ、4四の歩を取られても大丈夫かどうかを考える必要があり、(2)△3三銀は▲4四角△同銀に▲2六飛と再び飛車を2筋に回る変化が考えられます」(谷川十七世名人) 36 3三銀(22) (17:00/00:55:00) *11時15分頃、消費時間はどちらも55分で並んでいる。 *前例どおり△3三銀と上がった。先手の飛車の利きが2筋から離れ、2二の銀は中央で活用したほうが効率がいい。 37 4四角(17) (23:00/01:18:00) *番勝負は連勝スタートすれば、当然有利となる。過去のデータを見ても、2連勝した棋士が七番勝負を制した事例が多い。藤井が本局に勝てば番勝負のリードを奪える。一方の羽生は1勝を返して、実質五番勝負として仕切り直したい。 * *【前例を離れる】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-f3d2.html 38 同 銀(33) ( 0:00/00:55:00) *▲豊島−△斎藤慎戦は△4四同歩と応じていたところで、藤井は△同銀と手を変え、前例を離れた。 39 1五歩(16) ( 0:00/01:18:00) *迷わず端歩を突き出し、戦いの口火を切った。近年のタイトル戦は、二日制の一日目でもなかなかゆったりとした戦いにはならない。谷川十七世名人は「最近の将棋は、激しくいかないといけないんですね」とつぶやき、継ぎ盤を動かした。 *「△1五同歩に▲1三歩の垂らしが見えます。△同香なら▲1二角が桂取りと▲3四角成の両狙いになります。以下、桂取りを受けて△2二金には▲3四角成のほか▲2六飛も考えられ、△1二金▲2一飛成となると、後手は金取りを受ける有効な手段がありません」(谷川十七世名人) 40 同 歩(14) ( 2:00/00:57:00) *藤井は抑えめの白色の和服に焦げ茶色の羽織を、羽生は黒の着物に灰色の羽織を着用し、どちらも全体的に渋い色が目立つ装いだった。 41 2六飛(56) ( 2:00/01:20:00) *端歩を突き捨て、味をつけてから飛車を2筋に回った。△2三歩には、やはり▲1三歩の垂らしが狙いになりそうだ。後手は香を取られると▲8六香で飛車を捕獲される。端の応酬には注意を払わなければいけない。 *2筋を受けるなら、△2三歩のほかに△2二歩も考えられる。△2三歩だと△3五銀から飛車を追ったあと、▲6六角の飛車香両取りで反撃される可能性がある。低く歩を受けておけば、▲6六角の先受けにつながり、△3五銀と飛車を押さえ込みやすい。 42 2二歩打 (26:00/01:23:00) *低く歩を打って桂取りを受けた。羽生はメガネを外し、こめかみに手を当てて頭を支える。藤井はちらりと窓のほうに視線を送るも、すぐさま盤に戻した。 *12時20分頃、羽生が身の回りを整理して席を立った。しばらくして藤井も立ち上がる。どうやら少し早めの昼食休憩に入ったようだ。12時30分までの消費時間は、羽生の持ち時間から引かれる。 *「△2二歩と△2三歩では、今後の展開がまるで変わります。ここは羽生さんもじっくりと考えたい局面ではないでしょうか」(谷川十七世名人) *12時30分、羽生が19分を消費して昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲羽生1時間39分、△藤井1時間23分。昼食の注文は、藤井が山水館自家製秘伝の出汁キジうどん、羽生は大阪人懐かしのトンテキ定食。対局再開は13時30分。 *13時25分、羽生がゆったりとした足取りで対局室に戻ってきた。30分、対局再開を告げられると同時に、藤井が部屋に現れた。着座すると、すぐ盤に視線を向ける。 * *【1日目昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-70fe-1.html *【1日目の昼食】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-bc1d.html *【1日目昼食休憩の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-c9b0.html * *※局後の感想※ *代えて△2三歩は、▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3四飛△3三歩▲3六飛△7五歩▲同歩と進めて、藤井は自信のない様子だった。 43 1三歩打 (23:00/01:43:00) *関係者が対局室から離れ、しばらくしてから羽生が着手した。垂らしの歩で香の利きを止めて、▲1五香と走るのが狙い。△1三同桂も▲1五香があり、△1三同香は▲1二角の隙ができる。後手は歩を取りにくいのなら、▲1五香を防ぐ手段を考える必要がある。 *着手すると、羽生は額を押さえてうつむいた。藤井は扇子を手に持ち、くるくると回しながら読みに沈む。しばらく考えて、藤井は羽織を脱いで傍らに置いた。山々に囲まれた山水館は外はひんやりと冷たいが、対局室は十分に暖かいようだ。 *谷川十七世名人は、なかなかうるさい垂れ歩ではないか、との見解を示す。 *「現局面で△3五銀が目につきますが、▲5六飛と回られると、次に▲6五桂からの玉頭攻めが気になります。また、後手は飛車が狭く、場合によっては▲1二角と角香交換に踏み込む強打が成立するかもしれません。以下△同香は▲同歩成で、▲8六香の飛車取りや▲2一と、▲2二とが残ります。ともあれ、後手は多くの変化を読まなければならない局面となりました」(谷川十七世名人) * *【1日目対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-4672.html *【昼神車塚古墳】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-0234.html *【藤井王将、最初の長考】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-0d1c.html 44 3三角打 (82:00/02:45:00) *14時55分頃、△3三角までの消費時間は、▲羽生1時間43分、△藤井2時間45分。 *1時間22分の長考で角を打ち、端歩を支えながら2筋も補強する。着手後、藤井は立ち上がって席を外した。 *15時になり、午後のおやつの時間となった。藤井はモンブランショコラとアイスティー、羽生ははにたんどらやきとホットコーヒー。はにたんの焼印が特徴のどら焼きは、粒あんやカスタードクリーム、チョコレートなど、味がバラエティに富む。 *「ここで先手がどう指すか。▲2五飛は△1三桂が飛車に当たります。以下、▲8五飛△同飛▲同桂と飛車交換を迫っても、後手陣はしっかりしていて飛車の打ち場所が難しく、先手が少し無理をしているかもしれません」(谷川十七世名人) * *【1日目午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-59ae-1.html * *※局後の感想※ *△3三角に代えて△5一角が示されると、羽生は(1)▲3六歩△7三桂▲3七桂と進めた。一方、藤井は(2)▲1二角を気にしており、△同香▲同歩成△3五銀▲5六飛△7三桂▲2一と△6二金▲3六歩△4四銀▲3七桂△2八角が並べられた。以下▲2二と△同金▲2九香には△2七歩で手を続けられ、難解な局面が続く。 45 2五飛(26) (21:00/02:04:00) *飛車を浮いて、1五の地点に利きを足して香を走りやすくした。ただ、△1三桂が飛車に当たる。その先に用意の手段がないと指せない一着でもある。 * *※局後の感想※ *「こちらとしても、飛車浮きは仕方ありません」(羽生) 46 1三桂(21) ( 4:00/02:49:00) *香の妨げになっていた歩を取り払った。飛車に当たって好感触の桂跳ねだ。 47 8五飛(25) ( 2:00/02:06:00) *互いの読みが一致しているのだろう。2手前の▲2五飛から、比較的早いペースで局面が進む。飛車をぶつけて交換を迫った。△8五同飛▲同桂に△8九飛と先着されても、▲2一飛が次の香取りと▲4一角を見て厳しい。 48 同 飛(84) ( 1:00/02:50:00) 49 同 桂(77) ( 0:00/02:06:00) *先手は歩切れながら後手の角と働きの差を主張したい。 *後手は▲2一飛の受けを用意しておく必要があり、すぐには飛車を敵陣に打ちづらい。3歩得をどのように生かすか。手腕が問われる局面だ。 50 4五銀(44) ( 9:00/02:59:00) *自陣の角を遊ばせたままではもったいない。まっすぐ銀を立って、角の利きを通した。▲7七角は△同角成と手持ちにして、後手に不満なし。穏やかに香取りを受ける▲7七銀には、△同角成▲同金に△7九飛が金と香の両取りになる。 *羽生は記録係の机をのぞき見た。 51 2一飛打 ( 6:00/02:12:00) *香取りを放置して、敵陣に飛車を打ち込んだ。△9九角成には▲4一角△4二玉▲3二角成△同玉▲1一飛成と攻め合うと、玉の堅さの違いから先手が考えやすそうだ。 *時刻は15時45分。封じ手までの残り2時間15分で、どこまで進むだろうか。このままのペースだと、18時の局面は終盤戦になっているかもしれない。 *羽生はおもむろにあぐらから正座に姿勢を変え、腕を組んだ。 * *【大盤解説会】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-693c.html 52 3一飛打 ( 7:00/03:06:00) *飛車を合わせて▲4一角と香取りを同時に受けた。▲3一同飛成△同金は、飛車の打ち込みが消えて手順に陣形の隙を消せる。 * *【摂津峡クエスト(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-dede.html *【摂津峡クエスト(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-3972.html *【摂津峡クエスト(3)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-40a3.html *【展望デッキからの眺望】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-c4bd.html 53 1四角打 ( 2:00/02:14:00) *端に角を打ち込んで、△2一飛に▲3二角成の飛車角両取りを用意した。羽生は記録係から棋譜用紙を受け取り、しばらく眺めてから返却した。 *谷川十七世名人は、継ぎ盤を現局面まで動かし、じっと盤上を見つめて読みを入れる。 *「(1)△9九角成は▲3二角成△同飛▲1一飛成で、後手の飛車が働きにくい展開になります。(2)△2三歩も▲同角成であまり状況は変わりません。角切りを受けるなら(3)△4二玉が自然で、以下▲3二角成△同玉▲3一飛成△同玉▲1五香△同角の局面で、(A)▲1二歩と(B)▲1四歩のどちらもありえそうです」(谷川十七世名人) 54 4二玉(52) (22:00/03:28:00) *玉を寄って▲3二角成に△同玉を用意した。以下、▲3一飛成△同玉の局面は、後手玉の周辺に守りに適したカナ駒がいなくなる。先手の攻めはやや細いが、後手としても受けの強さが問われる。 *「封じ手までにどこまで進むのか」(谷川十七世名人) 55 3二角成(14) ( 5:00/02:19:00) 56 同 玉(42) ( 0:00/03:28:00) 57 3一飛成(21) ( 0:00/02:19:00) 58 同 玉(32) ( 0:00/03:28:00) *「少し考えてみたのですが、現局面から▲1五香△同角▲1四歩△2五桂に▲1三歩成としても、先手の次の手が見えづらく、そこで△1八飛の攻め合いがあるかもしれません。次は△3三角と引かれて、香取りと△1三飛成を見せられます。と金を払われると、先手に手段がありません」(谷川十七世名人) 59 8二金打 ( 0:00/02:19:00) *検討では▲1五香△同角に、▲1四歩と▲1二歩をメインに進められていた。羽生の手は意外な場所に伸びる。▲8二金がモニターに映ると、「すごい手だ」との声が聞かれた。関係者の話では、大盤解説会場で本日いちばんのどよめきが起こったという。後手玉から遠く離れた地点に金を打つ視野の広さに驚かされる。異筋の金の狙いは▲7二金△同金に▲5二飛の詰めろ金取り。この金は時間を使うことなく打たれており、この局面までも研究範囲なら、羽生将棋の深淵ははかり知れない。 *後手は詰めろ金取りをどのように受けるかが喫緊の課題。谷川十七世名人は、△4二玉▲2一飛に(1)△9九角成▲1一飛成△9八飛▲7九金の順を一例として挙げた。 *「後手は受けに適した駒がなく、指されてみると、味のいい受け方が見えにくいです。(2)△8九飛と攻め合うと、▲7二金△同金▲7九金△9九飛成に▲6一飛成で、後手は金取りと▲1一竜が同時に受かりません。飛車を温存しておけば、そこで△7一飛の受けが利きます。とはいえ、まだ形勢は不明です。この局面で封じ手に入る可能性は十分にあります」(谷川十七世名人) *藤井は前傾姿勢を深め、首をひねる。時刻は17時を回り、封じ手の時刻が近づいてきた。 * *【異筋の金打ち】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-1a63.html 60 4二玉(31) (56:00/04:24:00) *封じ手に入ってもおかしくないと見られていた局面、1時間に迫る長考で藤井は着手した。これ以上、羽生との時間差が開くのを懸念したのかもしれない。検討で示されていた玉上がりで、▲7二金△同金に▲5二飛を消した。 *日が長くなってきたとはいえ、18時が迫ると外はすっかり暗くなる。谷川十七世名人は▲2一飛を最有力として「恐らくこの局面で封じるでしょう」と予想し、封じ手に備えて控室を離れた。 *封じ手の定刻18時を迎え、羽生はすぐに封じる意思を示した。封じ手用紙を受け取って隣室へ向かう。藤井はじっと盤上を見つめ、時折首をかしげる。しばらくして羽生が対局室に戻り、藤井に封筒とペンを渡した。藤井は封筒に署名を入れて羽生に返し、最後に羽生から谷川十七世名人に封筒が手渡され、1日目が終了した。封じ手の考慮時間は37分で、1日目の消費時間は、▲羽生2時間56分、△藤井4時間24分。 *封じ手は、谷川十七世名人と稲葉八段は▲2一飛、折田五段は△8九飛を警戒して▲7九金を予想した。対局は明日9時から指し継がれる。 *2日目の22日も現地は晴れ。穏やかな光に照らされた山々の緑が目に優しい。1日目は羽生が攻勢に出て、藤井が受ける展開となった。決着がつく2日目はどのような結末を迎えるか。 *8時30分、谷川十七世名人を始めとする関係者が、昨日よりも早く対局室に入った。カメラのシャッター音だけが響く。 *46分、1日目と同じく羽生が先に入室。続けて48分に藤井が着座し、襟元を正した。やや間を空けてから両者が深々と一礼を交わす。駒を初形に並べ終わると、折田五段が前日の指し手を読み上げ、封じ手局面まで進められた。谷川十七世名人が「9時を回っておりますので、封じ手を開封いたします」と告げて両対局者の横に移動した。封筒にはさみを入れて用紙を取り出し、封じ手を読み上げた。 * *【羽生九段が61手目を封じる】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/61-9e3f.html *【封じ手】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-4646.html *【2日目スケジュール】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-1be2.html * *※局後の感想※ *玉上がりに代えて、藤井は△3二角や△4一角も考えたという。しかし、「ここで手放すのならほかの変化にしたほうが」と感想を残した。 61 2一飛打 (37:00/02:56:00) *対局再開の一着は、谷川十七世名人と稲葉八段が予想した▲2一飛だった。飛車には飛車とばかりに(1)△3一飛は、▲同飛成△同玉▲7二金△同金に▲5二飛が詰めろ金取り。(2)△4一飛も▲同飛成△同玉▲2一飛があり、(3)△5一飛も▲同飛成△同玉に▲3一飛が王手角香取り。どうやら飛車の受けは利きそうにない。 * *【封じ手は▲2一飛】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-bf9f.html *【2日目朝の対局再開(1)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-fe1b.html *【2日目朝の対局再開(2)】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-4c55.html 62 9九角成(33) ( 7:00/04:31:00) *香取りを防ぐ手段は難しい。△9九角成と香を取って馬を作った。「馬の守りは金銀三枚」との格言もあるように、後に△3三馬と自陣に引き戻ると、玉形が引き締まる。 *羽生は顎に手を当てて、盤を斜めから見る格好で読みを進める。(1)▲7二金△同金▲8一飛成は、後手玉から離れるので少し指しづらい。以下、△7一金打▲9一竜となると、次に▲7三桂成や▲7三香があるものの、金の壁を崩すのには時間がかかる。谷川十七世名人は(2)▲1一飛成からの変化を考えている。 *「▲1一飛成に△9八飛の攻め合いは、▲7二金△同金▲8八銀△同馬▲同金△同飛成▲2二竜が一例です。▲8八銀を打つと馬の利きが止まり、▲2二竜の一間竜が厳しくなります。▲2二竜以下、3二に合駒をする受けや△5一玉は▲3三角が王手竜取りで先手よしとなります。ですので、後手も▲1一飛成に△9八飛と攻め合えるかどうか、考える必要があります」(谷川十七世名人) *手番の羽生は席を立った。藤井は大きく息を吐き、うつむいた。 * *【封じ手開封】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-91fc-1.html *【開封された封じ手】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-0255.html * *※局後の感想※ *代えて△8六歩と打つのは、▲1一飛成△8七歩成▲同金△8九飛▲7二金△同金▲6一竜△7一金打▲2一竜△8七飛成▲3一銀△5二玉▲3二竜△6一玉に▲3三竜と角を取られる。そこで△8五竜では自信がない、と藤井。羽生も「△8六歩を打たれると手抜くしかない」と返した。 63 1一飛成(21) (31:00/03:27:00) *31分の長考で香を取り合い、戦力を補充した。検討を進める谷川十七世名人は、現局面から(1)△9八飛と攻め合いにくいのではないか、と話す。 *「現局面から△9八飛▲7二金に、(A)△同金は▲8八銀△同馬▲同金△同飛成▲2二竜△4一玉に▲3三角が詰めろ竜取りになります。先手玉は危険なようですが、▲3三角に△6九銀▲同玉△7八金▲5八玉△6八金▲4八玉の変化は、2二の竜が攻防に働いて、どうやら詰みはなさそうです。(B)△7八飛成と金を取っても、▲7九銀打や▲6九銀と受けに回られて後手を引きます」(谷川十七世名人) *よって、谷川十七世名人は(2)△5五馬を示した。銀取りを催促する一手。後手玉は薄くとも、▲2二竜さえ許さなければ簡単には寄らない。 *10時30分は午前のおやつの時間。藤井は槻っ子とアイスコーヒー。羽生は摂津峡地玉子プリンとオレンジジュースを、それぞれ注文した。槻っ子は高槻にちなんだ和菓子「高槻城」の小型版。高槻城は地元の偉人、高山右近の紋である七星紋をかたどるが、槻っ子ははにたんを型押ししている。焼栗あん、粒あん、黄味あんの三層あんが香ばしい。 * *【攻め合いは先手有望】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-2b3f.html *【2日目午前のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-e7b3.html * *※局後の感想※ *藤井は、▲1一飛成に代えて▲7二金△同金▲8八銀△9八馬▲1一飛成△3三角▲4六香△5四銀▲1三竜も読んでいて、自信がなかった、と話す。 *「その順は向こうのほうが手段が多い気がしました。香を取るのが自然ですよね」(羽生) 64 5五馬(99) (52:00/05:23:00) *52分の考慮で△5五馬と引き、銀取りを催促した。▲7二金△同金は攻守に役立つカナ駒を得られ、手段が増える。以下、▲8一竜には△7一金打と受けて竜が狭い。 *谷川十七世名人は、和服からスーツに着替えて控室に戻ってきた。 *「馬を引いて閉じ込められる心配がなくなり、△9八飛と打ちやすくなりました。▲7二金△同金に▲5六香が見えていて、かえってお手伝いになってはひどいのですが、その香で寄せられることはないと見られたのだと思います。▲5六香以下、△4四馬▲8一竜△7一金打▲9一竜△9八飛が考えられる変化です。△4四馬と引くと、好機に△5四歩が感触のいい突き出しになります。うまく△5四歩が突ければ、後手に楽しみの多い局面となりそうです」(谷川十七世名人) *藤井は腰を上げて対局室を離れ、羽生はぐっと体を前傾させて盤に近づいた。しばらくして藤井が部屋に戻ってくると、入れ替わるように羽生が席を立った。藤井は飲料を注ぎ足し、喉を潤す。 *11時20分頃、羽生の長考が続く。控室に大盤解説会場から稲葉八段が戻ってきた。稲葉八段は「現局面がいちばんの考えどころ」とコメントを残した。 * *【2日目午前の控室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-5e45.html * *※局後の感想※ *馬引きに代えて△9八飛は、▲7二金△同金▲8八銀が羽生の予定だった。 65 7二金(82) (56:00/04:23:00) *56分を消費して、▲7二金と銀を取った。稲葉八段は△同金に対して、(1)▲5六香以外の手を調べている。 *「▲5六香△4四馬▲8一竜△7一金打▲9一竜の変化は、▲銀桂香△角の3枚換えで先手が駒得なのですが、後手玉から竜が離れますし、なかなか挟撃形にならないのが気にかかります。(2)▲1五香と走れるのなら走ってみたいです。次に▲1三香成から▲2二成香で、後手玉を追い詰められそうです。ただ、▲1五香の瞬間に後手に手番を渡しますので、△9八飛や△9九飛などを読みきる必要があります」(稲葉八段) 66 同 金(61) ( 0:00/05:23:00) 67 5六銀打 ( 5:00/04:28:00) *馬の頭上に打ちつけたのは、候補に挙がっていた香ではなく銀だった。△5六同銀▲同歩△同馬で2二の地点から馬の利きがそれると、▲2二竜が厳しい。 *「後の△9八飛や△9九飛に▲7九香の受けを残しながら、馬を移動させたいという意味だと思います。ただ、持ち駒の銀と盤上の銀の交換になりますので、やや指しにくい一着でもあります」(稲葉八段) 68 同 銀(45) ( 3:00/05:26:00) 69 同 歩(57) ( 0:00/04:28:00) 70 3三馬(55) ( 0:00/05:26:00) *3三の地点まで馬を引いた。代えて△4四馬は▲4六香が当たりになった。 71 1三竜(11) ( 1:00/04:29:00) *1三の桂を取って馬に当てた。稲葉八段は、次に▲3三竜△同玉▲5一角が厳しそう、と話す。▲5一角以下、4二にどの駒を合駒しても▲2五桂△4四玉▲4二角成で、後手玉は寄り形となる。 72 2四角打 ( 8:00/05:34:00) *馬を支えながら竜に当てる角打ちで、敵陣をもにらむ。 *「△9八飛の一発で仕留めようという狙いで、積極的です。▲1一竜△9八飛に▲7九香では、△7七香のときにうまい対応が見えません」(稲葉八段) *▲1一竜以外に▲3三竜と大駒交換に踏み込む手段も考えられるが、先手の攻めが細い。稲葉八段は▲3三竜も読んだうえで、▲1一竜を選ぶのが現実的と見解を述べた。 73 1一竜(13) ( 7:00/04:36:00) *再び一段目に竜を潜った。稲葉八段は△9八飛に▲8九銀△9九飛成▲7九金と継ぎ盤を動かす。 *「飛車打ちに▲8八銀のような受けでは、△7七香と打たれて取る駒がありません。飛車を打たれると、先手は全力で受け止めなければいけません」(稲葉八段) *時刻は12時15分。昼食休憩が目前に迫っている。稲葉八段は、継ぎ盤を眺めながら「藤井さんはもしかすると、(1)△7七香から一気に寄せてしまう順を読んでいるのかもしれません」と予想する。△7七香に(A)▲同金は△同馬として、▲同銀なら△5七銀から詰み筋に入る。(B)▲7七同銀も△5七銀▲6九玉△7七馬で先手玉は必至。後手玉に詰みはない。 *これまで守勢だった藤井に、反撃の手段が見えてきた。昼食休憩明けから逆襲が始まるのか。 *12時30分、藤井が28分を消費して昼食休憩に入った。ここまでの消費時間は▲羽生4時間36分、△藤井6時間2分。昼食の注文は、どちらも高槻野菜たっぷりソース焼きそば。それに藤井はサケおむすび、羽生は梅おむすびをそれぞれ注文した。対局再開は13時30分。 *対局再開前の13時15分、谷川十七世名人が控室に戻ってきた。継ぎ盤の前に座り、(2)△7七銀を調べ始めた。(1)△7七香は▲4五桂の攻め合いが気にかかるという。以下、△4四馬には▲3三銀と王手で放り込む。馬と角のどちらかを取れば先手玉の危険が緩和され、後手玉を寄せやすい。(2)△7七銀は香打ちよりも厳しく、▲4五桂は△6八銀成▲4八玉△5八金と迫って手が続く。 *「67手目▲5六銀は、本譜のように進んだとき、▲4五桂を打てるようにした意味だと思います。その反面、玉頭に空間ができて、怖い部分もあります」(谷川十七世名人) *13時30分に対局が再開しても、藤井に着手の気配はない。13時55分、藤井と羽生の消費時間に2時間の差がついた。このまま考慮が続くと、次の手を指す頃には残り時間が1時間を切っている可能性すらある。この局面はそれだけ難解で、勝敗の岐路となりうるポイントなのだ。 * *【2日目昼食休憩】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-7583.html *【対局者の2日目昼食】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-879c.html *【2日目昼食休憩中の対局室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-f439.html *【2日目午後対局再開】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-def0.html *【藤井王将、長考連発】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-064e.html 74 7七銀打 (85:00/06:59:00) *44手目△3三角の1時間22分を上回る1時間25分の長考で、銀を打ち込んだ。谷川十七世名人が示していた一着で勝負に出る。(1)▲7九銀打△7八銀成▲同銀の金銀交換は、先手玉の耐久力が落ちる。(2)▲7七同銀は△5七金▲6九玉△9九飛▲7九香△7七馬で受けなし。(3)▲7七同金△同馬に、(A)▲同銀は△5七金▲5九玉△6九飛▲同玉△6八金打▲同銀△同金までの即詰みとなる。後手玉は銀を1枚渡して危険なようでも、(B)▲5一銀に△3二玉で詰みはない。ただ、△5二玉と逃げ間違うと、▲6一銀△同玉▲4二銀成△6二玉▲5一竜までの即詰み。8五の桂が働く仕上げとなる。 *14時40分、控室に古森五段が訪れた。現地大盤解説会の解説を務めており、△7七銀以下の変化を主に解説していたようだ。 *「△7七銀▲同金△同馬▲4六香△9八飛に、▲5七銀打は△6四香がうるさいと考えていました」(古森五段) *継ぎ盤を谷川十七世名人と古森五段が囲む。△9八飛に対する受けは▲5七銀打以外に▲7九銀打や▲6九銀、▲5九銀打があり、変化が無数にある。藤井の勝負手に、今度は羽生が長考に沈む番だ。モニターからは羽生のうめくような低い声が聞かれた。 *時刻は15時を回り、午後のおやつの時間となった。藤井はアイスティーとゆずソーダ。羽生ははにたん最中とホットコーヒー。 * *【古森五段来訪】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-5497.html *【高槻対局ギャラリー】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-6713.html *【2日目午後のおやつ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-4a35-1.html *【2日目15時頃の控室】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/15-a673.html * *※局後の感想※ *代えて(a)△9八飛▲4五桂△5七銀▲同銀△7八飛成▲6八銀打△7七馬▲3三銀△同角▲同桂成△同玉▲3一竜が並べられた。以下、△3二桂も△3二香も▲5一角△4四玉▲3二竜で、先手玉が詰むかどうかの変化となる。羽生はしばらく考えて「意外と詰まないのか」とつぶやき、藤井も「これで詰まなかったら負けなので」と述べた。 *(b)△4一飛はAIが示していた候補手。指摘されると、羽生は「▲同竜△同玉▲4五桂だと馬を逃げるってことですか」と驚いた様子。藤井は「常識的には自信ないですね」と笑った。 75 同 金(78) (72:00/05:48:00) *昼食休憩を挟んで1時間25分を費やした直前の△7七銀に対し、羽生も1時間12分の長考を返して▲7七同金と応じた。継ぎ盤では△同馬▲4六香△9八飛▲6九銀△6四香▲7八桂△6七香成▲同銀に△6六金が並べられた。最終手△6六金は△5七金打まで詰めろ。▲6六同銀は、△6七金▲4八玉△6六馬▲5九玉△6八銀▲同銀△同金▲同玉△4六角以下の詰みとなる。 *局面は終盤戦に突入した。検討でも優劣ははっきりとわかっていない。局面を調べる谷川十七世名人の表情は険しい。 76 同 馬(33) ( 0:00/06:59:00) *金を取って、△6八馬▲4八玉△5七角成までの詰めろ。▲7七同銀も△5七金▲5九玉に△6九飛が華麗な捨て駒で、詰み筋に入る。すなわち、先手に馬を取る選択肢はない。 * *【名物、似顔絵ケーキ】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-673a.html 77 5七銀打 ( 2:00/05:50:00) *玉頭に銀を埋めて詰めろを防いだ。馬取りが残っており、先手は馬を取ると▲5一角で後手玉の寄せが見えてくる。 *後手は馬取りをどのように対処するか。△7六馬と逃げて2二の地点から利きが外れると、▲2二竜が王手角取りで痛い。 *15時40分頃、藤井の残り時間が1時間を切った。 *「自然なのは△9八飛で、そこで▲4六歩と突いてみたいです。玉の懐を広げ、(1)△6四香に▲4七玉を用意しています。(2)△4六同角と取るのなら、そこで▲6九香と受けて角取りが残ります。しかし、▲6九香の局面は先手玉も相当怖い形です」(谷川十七世名人) *検討は進み、▲4六歩に(3)△4五香のただ捨てが示された。△6八馬▲同銀△5七銀▲同玉△4六角からの詰めろになっており、▲4五同歩も△6八馬以下の詰みとなる。しかし、▲6九桂と受けて後手の継続手が難しいようだ。 * *【藤井王将、残り時間が1時間を切る】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-680e.html 78 7八飛打 (35:00/07:34:00) *残り時間が30分を切り、△7八飛と先手玉に近づけて飛車を打った。「大駒は離して打て」の格言の逆をいく一手は、意表を突く。 *敵玉に近い飛車打ちは、▲7九銀打や▲6九銀の受けを誘っているかのようだ。すると△6六金という必殺手がある。△5七角成からの詰めろで、(1)▲6六同歩は△6七金▲5九玉△6八飛成▲同銀上△同馬▲同銀△同角成▲4八玉△5七馬▲5九玉△6八金までの詰み。(2)▲7八銀も△6八馬▲同銀△5七銀以下の詰みが免れない。藤井は密かにどんでん返しを狙っている。 *16時30分頃、スーツから和服に着替えて、谷川十七世名人が控室に戻ってきた。しかし、まだまだ終局は見えない。 79 4六歩(47) (41:00/06:31:00) *検討の本命でもあった▲4六歩は、角の利きを遮りながら▲4七玉の空間を作って逃げ道を広げている。 *17時ちょうど、大盤解説会から戻ってきた稲葉八段は、すぐさま検討に加わった。 *直前の△7八飛は、現局面から△4六同角▲6九香に、△6八馬▲同香△5七角成▲同玉△4六銀▲同玉△4四香と王手を続けたとき、(1)▲5五玉に△4六銀▲6五玉△7五金▲同歩△同飛成までの即詰みを用意している。これは飛車を近づけて打った効果が顕著だ。(2)▲3六玉も△3五銀▲2七玉△2六金▲2八玉△2七金打▲同銀△6八飛成で王手が続く。 80 同 角(24) ( 1:00/07:35:00) *わずか1分の考慮で△4六同角と飛び込み、△6八馬からの詰めろをかけた。先手玉は強力な大駒に囲まれて絶体絶命。羽生は藤井の仕掛けたワナをかいくぐれるか。 * *【際どい変化】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-ce14.html 81 6九銀打 (21:00/06:52:00) *ぐっと押しつけるように銀を打った。6八の銀にひもをつけて、△6八馬からの詰めろを受ける。飛車に当てて強く攻めを呼び込んだ。▲6九香と比較すると、△5七角成▲同玉△6八馬▲同銀△4六銀▲同玉△4四香に(1)▲5七玉で、(A)△4六銀▲4八玉△6八飛成のときに取られる駒が香ではなく銀。以下▲3九玉△2八銀▲同玉で香打ちの王手がない。歩切れの先手は合駒が悪く、香の王手は厄介だった。手順中の(A)△4六銀では(B)△4六金も有力で、先手玉の逃げ場所は(1)▲5七玉以外に(2)▲3六玉も考えられる。 *さまざまな要素が複雑に絡み合う手順は、終盤戦の醍醐味でもある。 * *【羽生九段勝勢】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-6faf.html 82 5七角成(46) (13:00/07:48:00) *角を切り飛ばして踏み込んだ。角を渡すと▲5一角からの寄せが生じる。もうあと戻りはできない。 *稲葉八段は「そろそろ終局が近いのかもしれない」との見方を示した。モニターで藤井の様子を確認すると、やや肩が落ちているかのように見える。 83 同 玉(58) ( 0:00/06:52:00) 84 6八馬(77) ( 1:00/07:49:00) *角に続けて馬も切った。藤井は額を押さえてうつむく。 85 同 銀(69) ( 0:00/06:52:00) *着手のペースが上がってきた。 86 4六銀打 ( 0:00/07:49:00) *銀を捨てて先手玉を上部におびき寄せる。 87 同 玉(57) ( 0:00/06:52:00) *代えて▲6六玉は△7五金▲同歩△同飛成までの詰みだった。最終盤でのミスは、途端に形勢逆転につながりかねない。 *17時40分頃、藤井の残り時間が10分を切った。羽生は1時間8分を残す。 88 4四香打 ( 2:00/07:51:00) *玉から離して香を打って王手。歩がない先手は合駒に苦労するが、この場合は▲3六玉や▲5七玉とかわしたほうがいいようだ。 *羽生が席を立った。しばらくして戻ると、両手を畳に突いて体を前傾させる。今度は藤井が対局室から出ていった。 89 3六玉(46) ( 6:00/06:58:00) *6分を費やして、▲3六玉と真横に逃げた。2筋に歩が立たない後手は、△3五銀▲2七玉に△2六金と追っていくよりない。 90 3五金打 ( 0:00/07:51:00) 91 2七玉(36) ( 0:00/06:58:00) 92 2六金打 ( 0:00/07:51:00) *カナ駒をどんどん投入して先手玉を追い込む。 93 2八玉(27) ( 0:00/06:58:00) *5八にいた玉は、するすると王手をかわし続け、いつの間にか美濃囲いに収まった。 94 2七銀打 ( 0:00/07:51:00) *最後のカナ駒である銀を、先手の玉頭に打ち込んで王手。 95 同 銀(38) ( 0:00/06:58:00) 96 同 金(26) ( 0:00/07:51:00) 97 同 玉(28) ( 0:00/06:58:00) *関係者はモニター前に集い、対局者の動きを注視する。終局の近さをうかがわせる。 98 2六銀打 ( 0:00/07:51:00) 99 2八玉(27) ( 0:00/06:58:00) 100 6八飛成(78) ( 0:00/07:51:00) *谷川十七世名人は、△6八飛成を見て席から立ち上がった。もう継ぎ盤は動かされていない。 101 4八香打 ( 0:00/06:58:00) *香打ちを見て、藤井が頭を下げて投了を告げた。▲4八香は唯一無二の合駒。仮に▲4八桂だと△2七銀打▲3九玉△4八香成▲同金△4七桂▲同金△3八竜で詰む。また、合駒をする場所も重要で、5八の地点で受けると、△2七銀打▲3九玉△4九香成から詰みがある。▲4八香以下、△2七銀打▲3九玉△4八香成▲同金△5九竜▲4九銀△3八香▲同金△同銀成▲同玉△4七金▲同玉△4九竜▲5七玉が一例で、先手玉は詰まない。羽生は最後まで間違えず、正確に逃げ切った。 *終局時刻は17時56分。消費時間は、▲羽生6時間58分、△藤井7時間51分。勝った羽生が1勝を返し、七番勝負は1勝1敗で、事実上の五番勝負となった。第3局は1月28、29日(土、日)石川県金沢市「金沢東急ホテル」で行われる。 * *【七番勝負第2局は羽生九段の勝利】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-e979.html *【終局直後】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-bb10-1.html *【感想戦】 *https://kifulog.shogi.or.jp/ousho/2023/01/post-10da-1.html * *※局後の感想※ *感想戦は18時50分に終了した。稲葉八段は本局を以下のようにまとめた。 *「相掛かりで、実戦例は少ないながらも、研究テーマの将棋となりました。前例から離れても難しく、1日目は羽生九段が積極的に攻めていきました。藤井王将が受ける展開となりましたが、2日目は反撃に転じます。しかし、後手玉は不安定な格好で、最後は難解な局面を羽生九段が読みきって勝たれたという将棋でした」(稲葉八段) 102 投了 ( 0:00/07:51:00) まで101手で先手の勝ち